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ある青年と相棒の話(仮)1


単発小説。
えーっとちょっと鬱系かも。
精霊は出てくるけどどっちかというと、ケツの青い奴メインの話です。

それでもおっけーな方は続きを読むからどうぞ!

あ、ちなみに名前が出てこないのはただ単に決まってないからという(笑)



 [1]

――――最近、弟の表情が柔らかくなった。


 家に帰ると、僕は暑さでだらけた体を引きずりながらキッチンへ向かった。
 さすがに夏も本場に入ったからか、この頃暑い。とてもつもなく脳みそまで蕩けて耳から出てきそうなほどだ。服も体にベタついて膜のように張り付いているし、気持ち悪い。コップに何杯目かの牛乳を入れて飲み干すと、僕はコップを流しに置いて速くシャワーでも浴びようと、自室に向かった。
 すると部屋に行く途中、弟の部屋のドアが開いていることに気づいた。

― あいつ、帰ってたのか ―

 少し頬がゆるむ。ちょっとちょっかい出しに行こうと、少し隙間が空いているけど一応僕はドアをノックしようとした――
「・・・・・・そうそう! 面白いよな、クニタケって」
――けど
 ぴた
 僕はドアに直前に手をぴたりと止めた。
 少し開いたドアの隙間から弟の声が聞こえた。彼は誰かに電話をかけているらしかった。
「うん、わかるよ。お疲れ様」
 くすくす笑いながら言う弟の声。
 僕は、手を下ろすとくるりと踵を返し数歩離れた自室へ向かった。




「あ、おかえり・・・・・・?」
「・・・・・・ただいま」
 どさり
 面倒くさげに言うと、汗だくになっていることを気に留めずに僕はベットに倒れこんだ。
 その衝撃で少々ベッドが軋む。
 部屋は空調が効いているから涼しかった。それでも僕がべたついているには変わりは無い。倒れたことによってさらにシャツが張り付く不快感が深まったけど、それすらもひどく面倒くさいように感じた。
 そんな僕に漫画を読んでいたらしい、相手は不思議そうにこちらを見た。
「どうしたんだ? 死んだ魚みたいな目してるぞ」
「ほっとけ」
 少々ささくれた感をかもし出せながら顔も見ずにぼーっと天井を見た。暑さに火照った体が段々涼しくなっていく。けど僕の頭の中は妙に冷めていた。溜め息をつくと僕は目を瞑った。
 ただ、頭に残るのは楽しそうで穏やかな声。
 そして柔らかく優しい笑みを浮かべる弟の姿。
 あれは、今まで見た中でも一番優しい笑みだった。
「・・・・・・なにかあったのか?」
 小さな子ども独特の声が心配そうな様子と共に動いた。
 目を気だるげに開けると、そこには予想したとうり、相手は自分の真上に浮かびながらこちらを伺うように見ていた。獣の持つ、金色の瞳を向けながら。
「オレにできることならなんでもするよ」
 碧の毛並みが窓から指した光に反射して光っている。その瞳は心から僕のことを気にかけていた。
「・・・・・・そんな大それたことじゃないよ」
 ふっと苦笑すると僕は体を起こした。そしてぽんっと近くに手を置くと、意をくんでくれた相手はそこに重量感も無く降りて座った。
「心配すんな、ほんとにどうってことじゃない、些細なことなんだ」
「でもお前は落ち込んでいるだろ」
・・・・・・・・・・・・
 その言葉に僕は相手の目を見た。
 こちらを見てくるのは静かな森の気高さを表したかのような、気配。子どもの声には似つかぬ英知と聡明さに溢れた眼差し。それはまるで自分の内部を透かされているような感じがした。
「・・・・・・」
「なぁ・・・・・・オレ、役不足?」
 黙っていると不安になったのか、相手は遠慮がちに言った。
「頼ってくれよ。仮にもお前に仕える精霊なんだからさ」
 そう言う相手は少し悲しそうに笑った。落ち込んでいるのはこっちなのに、どうやら相手にも落ち込ませてしまったらしい。相手はパタリと碧のしっぽを気持ちと同様に垂らした。ついでに耳も垂れている。瞳の色と毛色を除けば普通の犬とは変わらない相手の反応に、少しばかり微笑ましくなった。
 風の精霊と妖精犬の間の子である相手は、まだ子どもだけど人間である自分よりはだいぶ年上だ。そして子どもとは言えどゴールデンレトリバーほどの大きさがある。普通の妖精犬と違うのは、風の気をまとっていることと毛の下に薄く紋様のようなものがあることだけ。
 どう見ても立派な姿なのにどうもコンプレックスを持っているらしい。そんな風には見えないけど、生まれ付き左前足が少々不自由だとか前に聞いた。だから本来なら出る実力が半減しているとも聞いたことがある。だから こう、頼られないと不安になるらしい。
「・・・・・・ほんとお前には敵わないな」
 はははと笑うと、相手の頭に手を乗せて撫でた。
「そんなんじゃなくて、な、あいつのこと」
「ああ、あの子のこと?」
 ちらりと壁を見た。その先の部屋には弟がいる。
「そう、あいつ・・・・・・表情、柔らかくなったよな」
 僕は笑いながら言った。それに相手はこちらを見る。
「きっと、好きな奴ができたらあんな顔をできるんだろうけど。それが少し、羨ましいよ」

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